電気ショック(電気けいれん療法あるいはECT)について

 ぼくは受けたことはありませんが、薬物以外で統合失調症の入院治療で外せないのが「電気ショック(ECT)」です。薬物治療が開始されるずっと前からやられていました。日本では太宰府が発祥で患者の前頭部2カ所に穴を開け、電極を直接脳にあて、ケイレンさせたのが最初だと記録されているそうです。電気ショックを受けた患者さんのうち、62.5%が統合失調症です。(「全国自治体病院協議会アンケート」(平成14年、公立病院のみ)にもとづいて話をしています。このアンケートは、同年の神奈川県立芹香病院の電気ショック死亡事故が入ってないことや、電気ショックを頻繁に行っている病院の参加がなかった、など信頼性には欠けるきらいがありますが、いまのところこれくらいしか資料がありません。)

 電気ショックの方法は100Vの電極をこめかみに当てて、数秒通電します。これを週2〜3回、全部で10〜15回行います。これが1クール(施行)です。人によっては何クールも施行します。デリケートな脳に対してあまりにもあらっぽい方法で、何回も受けた人は脳が焦げると表現しますが(実際電極を当てた所がやけどすることもあります)、方法には3種類あります。

 普通は、麻酔を注射してあるいは鎮静剤を飲んで通電し、(全身に激しいけいれんを伴うてんかん発作が起こりベッドから転落したり骨折したりするので)数人の看護人で身体を押さえ付ける、けいれん法です。押さえ付ける人も手から感電するので、看護人は普通電気を通さない布団のようなもので、押さえ付けます。でんかんの患者さんの特有のしゃべり方から、てんかん発作が脳に損傷を与えていると主張する医師もいます。キンドリングという現象もあります。

 最近は前処置の全身麻酔で人工呼吸下で行う無けいれん法が行われ始めました。仮死状態ですから全身麻酔を管理する麻酔医と生命を維持する手術室が必要と、大がかりです。精神病者は抗精神病薬によって血圧が下がってること、精神病者は普通の人にくらべて、体力が弱ってる(特に急性期には痩せ細ってしまうことが多い)ことなどで、全身麻酔をする麻酔医にとってもハイリスクです。(トピック1;本文最後参照)この場合口には舌などを噛まないようにマウスガードを噛ませ、痛みは歯医者にかかる程度だそうです。しばしば胃の内容物を吐くので絶食して掛けます。以前は吐いたものを咽に詰まらせて死んだ人もいました。精神科救急で電気ショックで急速鎮静するのにどうやって胃に内容物があるかどうか調べるのでしょうか。しかし全身麻酔といえば大手術で、それを最低1クールは行うのだから信じられないことです。副作用の記憶障害は、やることの内容はけいれん法と同じカだから同様でしょうし、麻酔を大量に使う分重い(麻酔薬の高用量が健忘に導く可能性を指摘:米国タスクフォースレポート、2002)ような気がします。ですが通電中縛った腕や足がけいれんする(通電を確認するために麻酔が行かないようにしている)以外は患者が動かないので普通骨折の心配はありませんが、覚める時からせん妄状態(意識がほとんどなくて幻覚や錯覚がでる)になってベッドから落ちることもあります。しかし手術室も麻酔医もいない私立単科精神病院が入院の85%を占める日本でどの程度やられてるのか、分かりません。世界的にみると、電気ショックを盛んにやってるのは米英日で、精神医療先進国のヨーロッパやオセアニアでは、あまりやられていません。それとあれほどの刺激を与えるのだから当然ですが、心臓に不安のある人は極めて危険です。日本では昔から自然経過の重視、荒療治の批判と待機的治療が行われてきたという伝統があり中井久夫医師らによって「心の生ぶ毛」(慎みを交えたやさしさへの敏感さ)を大事にするデリカシーが磨耗しないように接する治療法が発展していたのに、最近はすっかりアメリカナイズされて、長期予報の出来ない天気予報と同じような操作的診断(DSMなど)や「心の生ぶ毛」を刈り取る電気ショックが幅をきかせています。特に電気ショック推進派が電気ショックにとりつかれ、適応を広げ、普及に努めてる姿は、宗教的にすら思えます。EBM(エビデンスベースドメディシン)が広まっていますが、これは多数決で治療を決めようとするもので、少数者である患者にはなじまないものですが、推進派医師は論文をせっせと発表して、多数派になろうとしています。それに極端な話、お祓いにだって、気功にだって、有効例は存在します。抗精神病薬を医師自らが飲んでみたというのはよく聞きますが、電気ショックを推進する医師が自ら電気ショックを受けてみたというのは聞きませんがどうしてでしょう。保護室も拘束もみんな自分で経験してみたらいいお勉強になると思いますが。それに多くの医師が現在の薬物多剤大量処方の延長上で(多剤によってどうしようも無くなって)電気ショックが行われている事実を認めています。

 一方、日本では昔ながらの生がけ(無麻酔)も、10数%(前述アンケートによる)にのぼっています。死亡例も多いと聞いています。

 聞いた範囲では、電気ショックを受けた人のなかでは本人のインフォームドコンセント(トピック2;本文最後参照)はなかったものの快方に向かった人も1例だけ知ってますが、効果は一時的なもので再発をくり返している人ばかりです。

 電気ショックを受けた人は自然治癒力の発動が極端に遅れると警鐘を鳴らす医師(星野弘医師)もいます。電気ショックが何よりストレスフルな影響を患者に与える事から、自然治癒力を遅らせるということは説明出来るような気がします。特にストレス耐性の低い急性期(幻覚妄想の強い時期)に行うことは、一時的に治まったように見えても長い目で見ると予後が悪いようです。さらに電気ショックは陰性症状(無気力無感動な状態)を重くするとも語っています。精神科救急で有無を言わさず電気ショックをするなんてもってのほかでしょう。最初のインフォームドコンセントがうまく行かないと治療側が、後々まで治療に抵抗する処遇困難を作り出してしまうこともあります。

 そして、医師によって、電気ショックの好きな医師と、いっさいやらない医師とけっこう両極端です。電気ショックにとりつかれた医師は感覚がマヒしてしまうと言われています。だから、もし主治医が電気ショックを好きな医師で自分は電気ショックを受けたくないなら、普段から「受けたくない」と表明することが大切です。というのも事前に患者への告知を行っているのが、35.3%(前述アンケートによる)にすぎないからです。インフォームドコンセントによる治療の主導権はこれからは患者の権利だと主張すべきだろうと思います。現実問題として根性が座っていて電気ショックと聞いてビビらない患者にはインフォームドコンセント(他に治療法はないなどと、誘導なしに行われてるかどうかは疑問ですが)して、そうでない患者にはインフォームドコンセントなしに騙しうちをするように思いますがどうでしょう。

 実際精神医療先進国の多くは、「家族や友人の同意では電気ショックの施行に不十分」との「法律」を設けているし、本人が希望した時重度うつのみの適応がガイドラインで決められていますが、日本は野放し状態です。インフォームドコンセントのない強制治療に対して、当事者は知識をもって、断固拒否すべきでしょう。ちなみにぼくの主治医は電気ショックに反対しています。

 そしてうつ病には電気ショックがきわめて有効という訳ではなく、抗うつ剤の進歩を見れば、自殺もなく薬物治療でうつ病を治されてる医師もきわめて多いとい事実からこそ学ぶべきでしょう。薬の効かない難治例もあると言うかもしれませんが、さまざまな薬てんこ盛りの多剤処方や治療者の未熟によって難治例をつくり出しているのは、類書が指摘しているところです。

 さらに最近はうつ病、統合失調症の他にもパーキンソン病、認知症をはじめ、難病にもどんどん試されているという事態になっています。 こういう最近の学会の風潮はこういう人体実験を容認していると思います。

 アルコール専門病院や痴呆老人をかかえた病院や私立単科病院では、ひところに比べるとうちの近所では電気ショックをしない病院が増えているという印象はありますが(関西だけのようで関東では盛んなようです)、今だに患者をおとなしくさせる為に電気ショックをつかっています。「受けさせると看護が楽になる」と本音を漏らす看護者もいます。つまり精神科では医者も看護師も少なくて人手が足りないため、患者を管理するために電気ショックを行う場合が多いのです。この問題はつきつめていくと、昭和40年に国が精神病者の隔離入院を進める為(前年に起こった統合失調症の青年がライシャワー大使を刺すという「ライシャワー事件」がきっかけです。)精神病院を急いで大増設する時に設けられた、「精神科特例」(医者は他科の1/3、看護師は他科の3/4でいい)という、現在の日本の精神医療の貧困に横たわる大問題にぶち当ります。しかも精神病棟の40%は「精神科特例」すら守ってないそうです。残念ながら病院経営上、日本医師会も日本精神病院協会(入院患者の85%が居る私立精神病院)も精神科特例の廃止には大反対している現実があります。これには、薬の多剤処方、医療観察法、精神科救急、福祉ホームBなど現在の日本の精神医療の問題がずらずら〜`っとつながっています。国連原則(精神病者の保護および精神保健ケア改善のための諸原則1991年)やWHO基本10原則(精神保健ケアに関する法-基本10原則1996年)に日本の精神医療がいかに違反しているか、読んでもらえれば一目瞭然です。

 患者が、苦しくてたまらないから電気でも何でもやってくれ、というのではインフォームドコンセントの放棄ですから、医師はねばり強くインフォームドコンセントを行わなければなりません。信頼関係があればこそ患者はどんな大手術にも耐えられます。エビデンス(効果の実例)をいくら積み上げても、インフォームドコンセントによる信頼関係のない電気ショックは単なる拷問です。35.3%の事前の患者への告知も、告知ではなく信頼関係がなければならない、と思います。どんなに幻覚幻聴があっても本人に理性は残っているのです。

 薬は使いながら徐々に良くなるのを患者が実感できますが、電気ショックは患者側の治療へ参加が無い、という問題もあります。電気ショックでの急激な鎮静は、再燃再発する時の服薬遵守にもつながりません。一時的にでも劇的に鎮静されれば医者は面白いかもしれませんが、しんぼう強く患者に寄り添って患者と共に薬が効いてくるのを待つべきではないでしょうか。その間の患者とのきめ細かなやりとりがこのような長期疾患ではとても大切です。電気ショックはセレネースをどんどん点滴して、誰が見ても「そりゃ焦り過ぎだろう」と思うのと同じことをやってるんじゃないでしょうか?この病気は治そうと焦ると治らず、薬を飲んで自然に任せてると治って行くものです。気負いをもった積極的治療主義は予後が良くありません。

自殺念慮のときも同様です。自殺を思い詰めた時、思い詰めてるただ中では、他人の助けを求めることは不可能であるけれど、ちょっと時間が経ち、冷静さがちょっぴり芽生え始めると、周りに甘えることが出来るようになり、甘えが心を癒して行き、時間の経過とともに精神がなだらかになっていき、自殺願望がだんだん無くなって行く。ということを何度も繰り返すうちにぼくは経験的に学習しましたから、もうたぶん、自殺を実行することはないように思います。電気ショックで記憶と一緒に一気に自殺願望すらなくしてしまう、という荒っぽい方法は、そういう学習する機会を奪ってしまう。自殺を考えた時にはそばにちょっと甘えられる人が付き添ってくれてることが、一番です。症状と一生付き合って行く病者にとっては、重大な問題です


 悪性症候群に電気ショックの適応としてるところもありますが、これは悪性症候群を治療していざ抗精神病薬の投与に戻る時に医師がビビるので、電気ショックに逃げてるのではないでしょうか?そりゃビビる気持ちも分からないではないですが、漢方薬で補いながら少量の抗精神病薬で始めるのもひとつの手です。漢方は効く薬はたくさんあり、ぴったり合えば、ごく少量の抗精神病薬で治療可能です。漢方の知識の無い医者が多すぎるのも問題です。

 ジャズの好きな人は知ってるかもしれませんが、バドパウエルは統合失調症で若い時電気ショックを受けて一時的に記憶喪失だったそうです。

 無けいれん法でも大学病院で受けて、随所の記憶が無くなった例があります。いつか記憶が戻ることを祈るだけです。

 ぼくの知り合い(40歳くらいの統合失調症の男性)に80数回電気ショックを受けたがいます。電気ショック後遺症の重度の記憶障害で回数も本当のところはっきりしません。症状も酷く親は病院を訴えてやると言っていますが、肝心の事実関係を本人が全然憶えてなく、どうしようもできない状態です。いつもにこにこしてる彼が、痛々しいです。

 30歳くらいの女の子で、麻酔を数える声以降の記憶がすっぽり無く、記憶喪失になってる人がいます。たった1回の施行で、もう何年も経つのに以前の記憶が戻りません。年金を貰った時の病名は統合失調症ですが、私の病名は記憶喪失だと言ってます。先ほどの知り合いの男性と同じ病院で電気ショックの被害を受けてたのには、びっくりしました。

 まだパルス波(今までのそのままの100ボルトより少ない電力で発作をおこさせる)はまだ認可されてまだ1年半なのに、推進派からは短期的経過で「記憶障害は軽微」などと安全宣言をした論文が沢山出ています。効果を羅列した論文の、質より量で認められる学会の風潮を深く嘆いている良心的医師もおり、電気ショックをする医師はまず自分の技量を疑った方がいい、と言っています。推進派の医師は電気ショックは医師と患者の信頼関係なしにスピーディーに鎮静が行えるので(もちろん効果は一過性で、良くなることと鎮静は全く別なのですが)、ベルトコンベアーじゃないのに、病棟の効率的運用を大きなメリットに挙げています。再発してまた来てくれたほうが、経営効果が高いということでしょうか。一過性で再発するので、推進派医師は維持ECTといって、後々までも何度も何度もさらに電気ショックを続けるよう勧めています。

 芸術家でしたが、防御本能だったり、自分の思い通りにならなかったりすると、暴力をふるっている人がいました。彼は入院中に暴力をふるった度に、何回か分からないほどの、懲罰の電気ショックを受けました。退院したら抜け殻のようになってしまって、もう芸術活動はできませんでした。

 電気ショックの記憶喪失によって、クラス会に出ても同級生の名前も顔も想い出も何もかもぬけおち、そしてその当時習った英単語、授業のフ内容も、全く思い出せなくなっていた人もいました。

 もうひとりは母親や父親は覚えていても、自分の妻のことを全てを忘れてしまいました。妻は、義父や義母は覚えていても自分のことだけを忘れてしまった彼と一緒にいることが苦痛で、結局離婚してしまいました。

 若い時の電気ショックのせいで再発する度に記憶がなくなると、しみじみ語る人もいます。彼は7回の施行は覚えているけれど、それ以前何回受けたか分からないと言います。

 記憶障害とともに、施行時耳血や鼻血が出た人もいます。

 それから電気ショックを受けるまでは何ともなかったのに、電気ショックの後、心臓の痛みをずっと訴えてる人もいます。

 実はぼくの元友人で、ひろんさんという電気ショックを数十回うけて、胸を圧迫骨折して、副作用の記憶障害にも苦しんだ人がいます。彼女は「記憶がなくなって死にたくなった」「バスの乗り方を忘れてしまった」と言っていました。勿論病気は少しも良くなりませんでした。彼女は1回目の時に、多幸を経験したと言ってました。そんな状態を人為的に作り出して治療的と言えるのか、と思います。彼女は若くしてガンで亡くなりましたが、この文章を、芹香病院の電気ショック死亡事故(2003年には山梨の三生会病院での電気ショック死亡事故が表ざたになってます)をきっかけに電気ショック反対の活動家になり、「自分の体験や取材した電気ショックの実態を暴いた本を出したい。またPSWの資格もとりたい。」と言っていた彼女に捧げたいと思います。

トピック1(参考)精神科治療学第20巻第7号より。ところで術中の有害事象のうち特に重篤なものは、麻酔科領域で危機的偶発症と呼ばれる。このようなケースは、本調査の対象において0.51%であった。約120万症例を対象とした2001年の日本麻酔科学会麻酔関連偶発症例調査では0.25%と報告されている。調査対象とした症例の内容や数が大幅に異なるため単純には比較できないが、一般外科手術の約2倍と予想以上に高い発生率となっている。危機的偶発症については主に麻酔科領域で検討され、われわれの知り得た限りでは従来mECTを含む精神科治療において論じられることはなかった。今回初めてmECTにおいて高率に出現することが示された。このことはmECTが通常の外科手術に比べ、循環動態のより急激な変化をもたらす治療手段であることを反映した結果とも考えられる。われわれ精神科医にとってmECTは安全なものという思い込みがあるが、麻酔科をはじめ他科からみるとかなり危険性の高い治療法であることを十分に認識する必要がある。

トピック2(説明)おどしや不適当な誘導なしに、患者が理解できる書式や言葉で、a)診断の見立て、b)治療目的、治療法、予想治療期間、期待される利益、c)より侵襲的(障害的。反対語は保存的)でない方法も含む他の治療法、d)予想される苦痛、不快、危険性および副作用の情報を正しく説明したうえで、自主的に得られる承諾。インフォームドコンセントとは変わり者であってもかまわないという権利(例えばエホバの証人の手術時の輸血拒否。裁判では医療側が負け、インフォームドコンセントなしの医療は司法は認めませんでした)ですが、日本では医療側と患者が仲良くするための道具だと曲解されています。

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