統合失調症の薬について

(1)陽性症状の薬、陰性症状の薬


 「抗精神病薬」という言葉を聞いたことがあると思いますが、主に統合失調症のお薬のことです。これを中心に話をしていきたいと思います。

 統合失調症において、幻覚妄想などの派手な症状を「陽性症状」と言います。やる気が起きない、とじカこもりがちだ、などの症状を「陰性症状」といいます。

 陽性症状のあとに陰性症状が続くこともありますが、一方だけ、あるいは両方が混在することもあります。ぼくの場合、思い出してみると、陰性症状は短かったと思いますが、陰性症状ばかり長く続く人もいます。

 陽性症状に対しては多くの場合、高力価薬(後述)と呼ばれる<セレネース>(ハロぺリドール)や<リスパダール>(リスペリドン)が使われます。<セレネース>のほうが副作用(口が渇く、眠気)が強いですが、効き目も強いです。

 一方、陰性症状に対しては、今までは<PZC>(ベルフェナジン)や<オーラップ>(ピモジド)などしかなかったのですが、<リスパダール>の発売以来、陰性症状にも陽性症状にも効くということで、4種の新薬(非定型薬)が発売されましたが、発売され長期の経過を見てみると、それほど陰性症状の特効薬でもないことも分かってきました。

(2)非定型薬

 非定型薬とは1996年発売の<リスパダ−ル>をはじめ、<ルーラン>(ペロスピロン)、<セロクエル>(クエチアピン)、<ジプレキサ>(オランザピン)です。

 錐体外路副作用は比較的少ないと言われていますが「悪性症候群」(後述)や「遅発性ジスキネジア」(2〜3年続けていると出てくる、口をすぼめたりする副作用)などはそのあると言われています。また妊婦には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与となっています。

 それと、定型薬(旧来の抗精神病薬)から非定型薬に切り替えた時、1週間〜10日ほど眠気がきます。

 <リスパダ−ル>は最初に発売されたので定型薬っぽいところもあり、症状が強いとき大量投与^(5〜10mgくらい)すると、鼻づまり、そわそわする(アカシジア)、錐体外路副作用をはじめいろいろな副作用がでます。そう言う時には副作用止めの<アキネトン>や<アーテン>を併用します。

 ぼくの主治医は「<リスパダ−ル>は2mg以上使わないといけない時には、副作用止めを使わず他の薬に変える」と言ってます。少量でこそ良さがあるようです。

 <セレネース>のほうが合う人と、<リスパダ−ル>のほうが合う人といますので、飲み比べてみてください。

 非定型薬で気になる体重増加は、<リスパダ−ル>は他の非定型薬よりは比較的少ないようです。性機能の副作用(射精障害とか生理が止まるなど)が割と多いと言われています。

 <ルーラン>は飲んだ感じは精神がブランコのように揺れる感じがしました。副作用は別に感じなかったです。増やすと<リスパダ−ル>と同様に鼻づまりや錐体外路副作用がでます。

 <セロクエル>は非定型薬の中でも錐体外路症状と性機能障害が最も起きにくいと言われてます。だから副作用が起きやすい人にいいです。非定型薬唯一の低力価薬(後述)なので、眠くなる人が多いです。ぼくの飲んでいる50mg/日では効いているのか、いないのか良く分かりません。

 これだけでは幻覚妄想に効かない時には、<リスパダ−ル>を足したりします。というのも<セロクエル>は4つの薬の中で一番レセプターブロック(効き目のこと。神経伝達物質の受容体を塞ぐ力)が弱いからです。

 ぼくはこれに<ドグマチ−ル>を足して維持薬にしていますキ。<セロクエル>は性欲亢進効果があるという人もいます。また昏睡状態になったという人もいます。

 <ジプレキサ>は統合失調症による不安、抑うつに効果があります。<コントミン>をはじめ、多くの抗精神病薬でそうですが、<ジプレキサ>は体重増加が激しく(ある程度以上は太らないという人もいます)、性機能障害(生理が止まったり、性欲減退、乳汁が出る)もありますが、飲み心地は最高でシャキッとします。主治医は「これが目覚め現象だ」と言っていました。

 飲み始めに眠くなったりふらつく人もいます。24時間効果が続き、1日の内いつ飲んでもいい薬です。統合失調症だけでなく、うつやADHDの人に処方されることもあります。

 ぼくは眠くなりませんでしたが、大量に飲んでいる人は体が沈んで行くように眠れるという人もいます。

 残念なことに、ぼくが<ジプレキサ>を止めるようになったのは、血液検査で血糖値が上がったためです。

 《Bs(ブラッドシュガー)値が、空腹時110以下が正常。HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)値(3カ月の血糖値を反映した数値)が5.8以下が正常》

 <セロクエル>と<ジプレキサ>は共に糖尿病に禁忌(飲んではいけない)です。死亡例があります。あまりに咽が渇いたり、水を飲み過ぎたり、トイレに頻繁に行く人は必ず先生に言ってください。

 「定型薬」とは4種の非定型薬が発売される前の古いドーパミン(脳の興奮に関係する物質)を押さえることのみを主眼とした多くの抗精神病薬です。つまりドーパミンレセプターを遮断fすれば、興奮が押さえられ、鎮静されるという仮説が出来ました。

 それに対して非定型薬のうちで、SDA(<リスパダ−ル>、<ルーラン>。Sはセロトニン、Dはドーパミン)はドーパミンの他にセロトニンも遮断する薬、MARTA(<セロクエル>、<ジプレキサ>。Mはマルチ)はドーパミン受容体、セロトニン受容体の他にも沢山の種類の受容体に作用します。


 新薬の治験(新薬の発売直前にその薬効を再確認する為の調査データ収集システム)段階で分らなかった、困った事が非定型薬で起こってきました。これは昔の賦活系の薬の大量投与でもあったらしいのですが、あまりに賦活されるために、元気になった患者さんが、動き過ぎ、自分の情動、病気のために失ったもの、将来の問題などに直面することになり、現実に疲れて抑うつや不安になってしまうのです。

 <リスパダ−ル>では自殺例もあるそうです。これらは「目覚め現象」(「レナ−ドの朝」という映画にちなんで名づけられた)と呼ばれます。大体投与5ヶ月目ぐらいから現れるようです。


 これを防ぐのに、抗躁作用のある気分安定剤で対応する医師もいます。しかし、本人が気を付けて、元気になっても動き過ぎないこと、持ってる力の6〜7割まででセーブするという、普通の再発を防ぐ生活を心掛けるのがいいと思います。そのために患者同士の支援が有効と言われています。


 でも長期間飲み続けると、非定型薬(オランザピン)と(ハロペリド−ル)の生活の質の改善は同程度というデータもあります。

 今、アメリカでは初発ュならびに再発エピソードの第一選択薬として位置付けられているらしい「アビリファイ」という新薬があります。日本での認可はまだですが、ドーパミン受容体が過度に刺激されている場合は抑制的に働き、刺激が低下した場合には賦活することによりドーパミン神経系活動を安定化させる薬(Dopamine System Stabilizer)だそうです。でも薬価は高く(非定型薬も高い)、最近の32条公費負担(後述)の廃止論議にもつながっています。

(3)高力価薬と低力価薬

 薬をもらったとき、明細書に「1日1〜10mgくらいで処方されている」と書かれている薬があるかと思うと、「5〜1000mgで処方されている」と書かれている薬があると思います。しかし、多ければ効くというものではありません。多いのは、多くしないと効かない薬なのです。

 抗精神病薬を大雑把に分けると、鎮静系(落ち着かせる。眠くなるので、睡眠薬にも使われる)の「低力価薬」と幻聴妄想を止める作用の強い「高力価薬」に分かれます。

 力価とは薬の強さです。1〜2mgで出されるのは力が強いから少ない量で効き、10〜200mgで出される薬は力が弱いのでそれほどの量が必要なのです。

 力が強い薬を「高力価薬」、力が弱い薬を「低力価薬」と言います。

 肝臓で薬の代謝(当然薬は異物ですから)を行ないますが、量を多く飲む鎮静系の薬ほど、肝臓に負担がかかります。だから、血液検査で肝臓のチェックを行わないと、肝臓を悪くします。肝臓は「物言わぬ臓器」と言われ、肝硬変にでもならないと自覚症状がないですから自覚症状がなくても、定期的に検査してください。


 高力価薬は幻覚妄想に強いですが、副作用として錐体外路症状(運動調節障害)が出やすいです。それに対し、低力価薬は鎮静作用が強いので、興奮してる患者さんに注射すると落ち着いたりしますが、副作用として自律神経系の症状(口が渇く、鼻づまり、唾液多くなる、目がぼやける、便秘、立ちくらみなど)が出やすいです。そして、気持ちを鎮める為、陰性症状には良くないと言われてます。

 高力価薬では <セレネース>が幻覚妄想には第一選択薬でしたが、今は非定型薬の<リスパダ−ル>が多く使われています。

 <セレネース>は強力ですが副作用も強いです。<インプロメン>は<セレネース>よりすこし弱い効き方です。<オーラップ>はちょっと効き方が違い、無為(やる気がでない)、自閉(とじこもりなど)などを改善させます。妄想の第一選択薬でもあります。ぼくは以前、維持薬として使っていました。

 〈ハロマンス〉(デカン酸ハロぺリドール)という、注射液で注射するとそこがぷっくりイボのようになり、4週間ほど効き続けるもの(「デポ剤」と呼ばれます)もありますが、悪性症候群(後述)の場合、薬が抜けにくいという欠点も烽り、注射も痛いらしいです。もともとこの薬は広い地域に病院が少ない地域で長持ちさせる為に開発されたのに、日本では服薬合意(本人が自主的に薬を飲むこと)が無い時に使うと言う、誤った使い方がされています。効き過ぎてうつになる人もいます。

 それに対して多い量で使われる薬には、<コントミン>(クロルプロマジン)、<レボトミン>(レボメプロマジン)、<メレリル>(チオリダジン)、<ニューレプチル>(プロペリシアジン)、<ベゲタミン>(クロルプロマジン)(塩酸プロメタジン、フェノバルビタールの合成薬で、薬同士が反発しあって催眠効果を高めている。AとBがあるが、AはクロルプロマジンがBの2倍量)などがあり、主に催眠鎮静効果が高いものが多いです。

 つまり眠たくなるのです。そのため昼間には落ち着けるために、寝る前での処方は睡眠薬として出されています。でも翌朝残るものが多く、シャキッと目が覚めません。そのため、シャキッと目が覚める抗不安剤系の睡眠剤を好む人も多いようです。

 深い眠りを得るために鎮静作用のある抗精神病薬を併用しないといけない人には普通、眠りにつくための入眠剤に「抗不安剤」を、眠りの維持に鎮静系の抗精神病薬を用います。

 <コントミン>は初の抗精神病薬(1895年発売)ですが、今も使われていて鎮静作用が強く睡眠薬としても使われます。皮膚が変色する副作用などがあります。

 <レボトミン>は<コントミン>より鎮静作用、安定作用が強く、急性期や睡眠障害に使われます。

 <メレリル>は抗精神病薬ですが、神経症やうつ病にも使われ、眠くなります。血管系に影響を与えます。SSRIとの併用が禁忌です。

 飲んだ感じは、<レボトミン>がシャープで深く、長いが重い眠り、<ベゲタミン>は重くて長いがいまいちシャープさに欠けます。<メレリル>は前2者に比べると弱いけれど、すぐ眠れ比較的キレがいいです。

 しかし個人差もあるようで、外来診療のときに、<レボトミン>などの強い薬を10錠以上処方されている人を見ることがありますが、びっくりしてしまいます。ぼくなんか最低錠を1錠のむと、丸半日は完全に眠ってしまいます。


 どちらとも違う中間型もあります。<ニューレプチル>は適度の鎮静効果と抗精神病作用を持つと言われてます。<ピーゼットシー>は吐気をおさえ陰性症状の改善が期待されます。眠くなります。

 分類は違いますが、<ホーリット>は維持療法に適していて、睡眠薬として飲む゙と軽い眠気が持続しますが、昼間飲むとどうも口が乾いたり鼻が詰まったりします。<ロドピン>は不安、焦燥、緊張を柔らげ、鎮静抗躁作用があります。飲んでる友人は強い薬で、頭が押さえ付けられるようだと言っています。

 <ドグマチ−ル>もどれにも属さない独特な薬です。もともと胃薬で潰瘍の治療に使われたりします。統合失調症には300mg以上で、うつ病ではそれ以下で効きます。副作用として、プロラクチンの値が上昇し、男性でもおっぱいが大きくなったり、女性では母乳が出たりします。さらに性欲を減退させる副作用もあると言われています。胃薬で食欲が出る為、太ったりします。この性欲減退や太る、あと月経異常の副作用は他の抗精神病薬でも出ます。


 抗精神病薬ではありませんが、よく頓服などに気分安定のためにだされるものに、<テグレトール>(カルマバゼピン)があります。人によっては、ふらふらする場合もあります。これは飲み続けると肝代謝の自己誘導により2〜4週間後には効きが悪くなることがあります。そういうときには抗躁作用を得る為に増やしたり、非定形薬を増やしたりもします。またPTSDのひとの苦痛にも有効であるとも言われてます。

(4)多剤大量処方

 ある人が非定型薬1剤 + 定型薬2剤 + 抗パ剤2剤 + 抗うつ剤1剤 + 睡眠導入薬ベゲA この処方で「安定した状態」と言いきる医師に見切りをつけ、別の医師に処方してもらったら半年余で、非定型薬1剤と睡眠薬<ロヒプノール>で納まったそうです。それまで患者は激しい妄想や幻聴、リバウンドの繰り返しで、在宅とはいえオムツが放せない状態だったそうです。

 でも薬は増やすより減らす方が圧倒的に難しいです。多剤大量で絶妙なバランスをとっているものを、1剤抜いただけで、バランスが崩れてしまうかもしれません。飛行機が離陸の時には全力噴射で一気に飛び上がればいいのに、着陸の時には徐々にスピードを落として行き、失速しないように目的の飛行場に着陸するのに似ています。

 クロルプロマジン換算というのがあります。各抗精神病薬のドーパミンブロックの力を<クロルプロマジン>を基準にして数値化したものです。例痰ヲば先ほどの<ドグマチ−ル>は<クロルプロマジン>を100とすると換算表を見ると200で、<クロルプロマジン>100mgと<ドグマチ−ル>200mgが同じ(ドーパミンブロックの)強さであることが分かります。これに一日の合計ミリグラムを乗じて一日の抗精神病薬の合計を出し、他の抗精神病薬も同様にして全部の合計の値が1000を越えたりすると大量処方と言われます。たぶん精神病院に沈澱している多くの長期入院患者もこういった大量処方の犠牲者だと思われます。非定型薬ですが、これはドーパミンブロックだけでなく、セロトニンにも効きます。従来薬のフ中でも<ロドピン>などは非定型薬に入ります。クロルプロマジン換算はドーパミンブロックの力ですから、従来の抗精神病薬では換算はストレートに薬の強さでしたが、非定型薬では、このクロルプロマジン換算では、強さを測れなくなってきたことに、留意してください。

(5)半シ減期

 効き目が切れてくる時間を「半減期」と言います。薬の「添付文書」(副作用とかが詳しく載ってる製薬会社の説明書)を見るときの参考にしてください。しかし、抗精神薬は増やし過ぎるとかえってしんどくて眠れないばかりか、昼間に中途半端な眠気が残ったり、副作用が強く出たりしてしまいます。

 抗精神薬の種類や量は一人ひとり皆違うし、また時期によっても違うので、主治医と患者で飲み心地を相談しながら試行錯誤で決めていくしかありません。主治医との試行錯誤とは、例えば副作用が強い時には多剤のうちまず1剤を減らしてみて様子を見、次に別の1剤を減らしてみて様子を見、と繰り返して原因薬を探っていくのですが、多くの医師はめんどくさがって、「我慢しろ」と言うことが多いですがいけないと思います。

(6)薬の名前

 この文章のなかでは、<>の薬の「商品名」の後ろに、()で「一般名」を表記しました。ふだんの医者との会話では製薬会社ごとにちがう「商品名」でいいですが、外国とか行って発病したりして薬の処方をしてもらおうと思うと、()で書いてある一般名を言わないと通じません。


 また、「ゾロ薬」というのを聞いた事あると思います。薬は開発した会社が特許のように20〜25年独占販売できます。それが切れると、人気のある薬は製薬会社各社が一斉に同じものを違う商品名で販売し始めます。このときに後からゾロゾロ出てくるので「ゾロ薬」といいます。ゾロ薬は研究開発費がかかってない分、値段も安いです。でも通院費公費負担を利用すれば、患者にはあまり関係ありません。「一般名」はひとつの薬にひとつですが、「商品名」は沢山あります。

(7)うつについて

 一般的にうつというのは緊張が下がって起こり、統合失調症は緊張が上がって起こるので、簡単に言うとうつを治療するには薬で緊張を上げ、統合失調症は下げればいいわけです。

 うつと統合失調症が同時に起こったときにはどうするかというと、<ドグマチール>など、両方に同時に効く薬を使い(うつの薬と統合失調症の薬を同時に処方されることもありますが、併用禁忌の場合もあります)、睡眠を十分にとるということをします。睡眠は疲れをとり、気分をなだらかに落ち着ける最良の方法です。だから逆に眠れないのは要注意です。自分では眠ったつもりでも、十分深い眠りになってない場合もあります。


 うつの治療では下がっている緊張を上げると言いましたが、抗うつ剤で上げてしまうと却って自殺願望が出てしまう時には、逆に鎮静(下げる)させて考えさせないようにする時もあります。あと、ぼくの知っている緊張性うつ(緊張が上がって考え過ぎてうつになる)の人は「こんなに病気が重いんだ」とよく喋ったりすることがあります。普通のうつ病の人は黙って落ち込んでいます。)こういう時の治療には緊張を下げるタイプの抗うつ薬を使います。初期のうつでは、下げるべきうつか、上げるべきうつか、専門医でも判断が難しいそうです。

 気分を上げようと酒と薬を同時に飲む人がいますが、これは止めた方がいいです。薬の作用が尋常でなくなるうえに、酒はどんどん量が増え、しかも睡眠の質を落とすからです。うつとアルコール依存症に同時になる人は多い「です。

 躁病と統合失調症が合併することもあります。気分がやたらハイになって、ふだんならなかなかできないことをしたりします。ぼくの知ってる人にお堀に飛び込んで白鳥を追い回した人がいます。躁病の治療には普通<リーマス>(リチウム)を使います。コントロールが難しい薬で、血中濃度を測定しないと中毒になるおそれがありますが、慣れもあります。

(8)副作用止め

 抗精神病薬にはよく副作用止めが出されます。副作用止めと言っても、抗精神病薬の全ての副作用に効く訳ではなく、手が震えるとか、ろれつが回らない、体が堅くなる、そわそサわする(アカシジア)、首が曲がる、眼球上転発作(ジストニア)、など錐体外路症状に効きます。副作用止めの薬には<アキネトン>(ビぺリデン)、<ピレチア>(プロメタジン)、<アーテン>(トリヘキシフェニジル)などがありますが、緊張を上げる副作用があります。しかしピレチアなどは他の副作用止めのように抗コリン剤ではなく抗ヒスタミン剤のため逆に眠気のくる場合もあります。つまり統合失調症の薬は緊張を下げて、副作用止めは緊張を上げる、反対の作用があります。その為、副作用止めの量が多いと幻覚妄想が出たりします。そういう場合は幻覚妄想止めの薬を増やすので無く、副作用止めを止めなければいけません。そして物覚えが悪くなる副作用もあるようです。手足がしびれたりする人もいます。抗精神病薬にはお約束のように副作用止めを入れたり単独で眠前投与する医師もいますが、うつになったり睡眠の質を落とすことも多いので、飲まなくて済むのなら飲まないほうがいいです。錐体外路症状には漢方では抑肝散が効くと言われています。


 副作用止めは錠剤だけでなく注射もあります。速効性があり、そわそわしていたのがぴたっと止まります。

 副作用止めは普通抗精神病薬に併用さウれますが、抗うつ薬や吐き気止めにも併用されることもあります。
 錠剤の薬は飲んでから効いてくるまでだいたい30分〜1時間、睡眠薬では2〜3時間かかる感じがします。

(9)副作用止めの効かない副作用

 副作用は他に、口が渇く、鼻づまり、便秘、肥満、無月経、インポテンツとかもあります。これらは副作用止めではよくならないので、漢方(白虎加人参湯(実証)五苓散、柴苓湯(実証)など)を使ったり対症療法(例えば便秘には下剤)もします。これらの症状は薬のせいだけではなく、うつの症状でも現れることもありますので、主治医によく聞いてください。副作用は緊張の高い仕事中とか睡眠不足の時に強く出るようです。

 また「抗精神病薬は緊張を下げる」と先に書きましたが、治りかけの時に必ずうつ状態を経験します。これは抗精神病薬が緊張を下げ過ぎてうつになるためです。こういう場合は抗精神病薬を減らせばいい「のですが、薬によるうつか体調によるうつかは見きわめが難しいので、必ず医者に相談してください

 副作用止めの効かない抗精神病薬の副作用のうち、2〜3年続けて飲んでいると、口や舌がかってに動いて口をすぼめたりすることがあります(遅発性ジスキネジア)。緊張した時に出ることが多いです。ひどくなると、食物の飲み込みや呼吸が困難になったりすることもあるそうです。

(10)怖い副作用

 あと、口が渇くからと水をペットボトルに大量に飲む「水中毒」も意識障害やけいれんを起こす事があるそうです。

 副作用で怖いのは、まれにしかありませんが、「悪性症候群」です。心身共に疲労が激しい時などに、急に点滴などで大量の抗精神病薬を入れた時など、何の前触れもなく起こります。医者は「死因不明」と言っていましたが、たぶんこれで亡くなっただろう人を知っています。精神変調、筋肉のこわばり(腕が振れなくなる驕j、ふるえ、発汗といった症状からはじまり、38度以上の発熱、さらに高熱が続き、脱水、意識障害、呼吸が荒くなる、しゃべりづらい、よだれ、失禁など、腎不全を併発、死にいたることもあります。早期発見、早期治療が重要です。発症頻度はまれとされますが、報告によりバラツキがありよく分かっていないけれど、約0.2%という報告もされています。飲み始めから30日以内に発症するケースが全体の約90%以上を占めるそうです。

 ぼくは入院中毎朝「何で精神科なのに体温はかるんだ」と適当に書いてましたが、今になってこれの発見の為だとわかります。

原因薬の例として、おもに抗精神病薬や抗パーキンソン薬(副作用止め)の減量、中止時、抗うつ薬(三環系)、ベンザミド系制吐薬<プリンペラン>、<ドグマチ−ル>、他<リチウム>(抗躁剤)などです。

 悪性症候群とは錐体外路症状の重症化したものです。錐体外路症状とは、急性ジストニア(眼球上転、喉頭けいれんなど)、アカシジア(そわそわしてじっとしていられない)、パーキンソンニズム(筋強剛[悪性症候群の高熱の原因]、ふるえ、よだれ、動作緩慢[薬剤性うつとの区別が難しい]など)、遅発性ジスキネジア(長期服用で出てくる。口をすぼめたり、ぴくぴくする。治療法がない。会話、摂食障害によって人に変に見られるもとになる)などです。副作用の比較的少ない非定型薬でも、悪性症候群はおこり得ると言われてます。軽い状態(熱があるのに蒼白くてグタッとしている)なら、薬を切り替えたら良くなります。身体的拘束が重要なリスクファクターだと言われています。

 三環系やSSRIなどの抗うつ剤でも(多くは抗精神病薬との併用で)似たようなことが起こり、セロトニン症候群と言われてます。体は固くならず、運動亢進が起こり、原因薬物を中止して対症療法を加えれば、たスいていは24時間以内に回復しますが、死亡例も報告されています。

 予防・対策として、
1.抗精神病薬など発症頻度の高い薬の服用に際しては、ご家族も含め、事前に説明を受けておく。
2.自分だけの判断で、急に薬の量を増やしたり、減らしたりしない。
3.上記のような症状があらわれたら、すぐに病院に連絡または受診する。

 悪性症候群になる人は年間1万人くらい。死亡率は10%で、何度も厚生省通達が出ています。

 これは1人では対処出来ないので、家にいる時なら何とか救急車を呼ぶことです。

 あと日本では、精神障害者のうち年間1000〜1500人が心臓にきて不整脈から突然死しています。この統計のなかには自殺も入っていると思われます。また、抗精神病薬を長期服用していて副作用や動かないことで肥満している人(本来緊張する病気で常に緊張してると太らないので、太るということは緊張が抜けてる事でいいことです)が、外科手術などを受けた時に点滴だけの栄養で栄養不足になって体脂肪が分解されると、脂肪層中に溜まっていた薬が一気に溶け出して大量服用と同じ状態になることもあるそうです。大量服用でなくて常用量でも、まれに起こるそうです。


 他科でもらってる薬は必ず医師に申告してください。飲みあわせ禁忌(思わぬ副作用をもたらす)の薬もあります。あまり多剤併用してると、医師にもどの薬同士が悪さをしているのか分からない場合もあります。      

(11)抗不安剤系睡眠薬(入眠剤)概論

 現在は<ネルボン>(ニトラゼパム)、<ユーロジン>(エスタゾラム)、<ロヒプノール>(フルニトラゼパム)、<ハルシオン>(トリアゾラム)などのベンゾジアゼピン系が主流ですが、<デパス>(エチゾラム)、<レンドルミン>(ブロチゾラム)などのチアノジアゼピン系も似たような作用なので、一緒に説明します。 これらは本来統合失調症や躁うつなどの精神病の薬ではなく、主に神経症圏の人に使われます。もちろん統合失調症でも入眠剤や頓服として飲んでる人は沢山いると思います。作用は抑制をとりリラックスさせます。させ過ぎて、強気、外交的、悪く言うとわがままにさせる作用があります。酒を飲んだ時に似てます。酒を飲んで泣く人もいるようにうつになる人もいます。(実際アルコール類似物質と言われ、アルコール依存症に作用も副作用も似ています。ちなみに半減期はアルコールもハルシオンも3時間です)これらの状態が大変気持ち良いので、依存性があります。Bなかなか止められません。ま、眠ってしまえばそれらは分からないですが、昼間飲むと分かります。それに加えて離脱作用(禁断症状)として、急に止めると反動的に不安、不眠、焦燥、動悸、知覚障害などが出るので、また飲み始めてしまう。これは、1日のうちでも起き(デパスなど短時間で切れるもの)、飲んでない起きてる時間帯に、不安になったりします。そして、長期服用で耐性が出来てきて、量が増えてしまいます。

 抑制をとるので、ぐったりさせる筋弛緩作用があり、夜は安らかに眠りにはいれます。そのかわり、多くは作用時間が睡眠時間より短い「ものが多いので、睡眠の後半で、旨く眠れない事もあります。それで、早朝覚醒することもあります。

 妊娠初期に飲むと胎児が障害児になる可能性があり、妊娠後期には胎児に鎮静効果を及ぼしてしまうので、妊娠中は飲むのを避けるのが普通です。

 そして睡眠薬を常用している髏lは飲んでない人より、死亡率が25%増しだということを付け加えておきます。バルビツレート系やメプロバメート系ではもっと危険性が高いです。

 日常的な不安や不眠には、悩みの解決などのほうが大切で、決して気軽に飲まないでください。

(12)抗不安剤系睡眠薬各論

 <ネルボン>はあまり効かなかったです。半減期28時間なので、1日ぼ〜っとしてます。

 <ユーロジン>は飲んだ事はないけど、<ネルボン>に似てるそうです。

 <ロヒプノール>は体内の脂肪に溶けにくく、血中濃度がさがりにくく、良く効きます。実際飲んで1時間くらいで、最高血中濃度になり、眠気がきますから、すみやかに床にはいります。ただしぼくの経験でも人から聞いても、早朝覚醒があります。

 <ハルシオン>は半減期が3時間で、翌朝すっきり眠気は全くありません。健忘や立ちくらみがあります。他のベンゾジアゼピンより、耐性も離脱症状も強いです。製造元のアップジョン社がデータの隠ぺいおよびねつ造をしてたことが発覚し、各国は販売を中止したりしましたが、日本はそのまま販売を続け、今では世界の年間売り上げの60%が日本で消費されています。

 <アモバン>(ゾピクロン)は半減期が3.9時間で、飲んだ人によると「すぐ眠くなる」と「味だけでなく自分の体まで苦い雰囲気になる」でした。また<ハルシオン>よりは効き目がある感じです。

 <マイスリー>(ゾルピデム)は<ハルシオン>よりさらに短期型で、寝付きだけの薬です。でも依存や反跳性不眠(急に止めた時)はあるようです。

 チエノジアゼピン系の<デパス>は<ロヒプノール>なんかよりは弱い睡眠効果ですが、軽い人は十分寝つけます。抗不安作用もあり、気持ちがよくなるが、離脱作用もあらわれますから、油断しないように。国内抗不安薬で、売り上げNO.1です。

 <レンドルミン>は国内向精神薬のなかでの売り上げNO.1です。でも良く効くと言う人はあまりいません。

 <ドラ−ル>(クワゼパム)はデパスの眠気を強くした感じですが、長期型なので、中途覚醒する人にいいそうです。でも日中残るので認知機能が下がります。

 薬に頼り過ぎると心配という、人は、眠るまえに、コーヒーを控えバナナや牛乳を飲むといいです。軽い睡眠障害には効きます。ぼくもバナナはよく食べてます。

(13)睡眠への漢方の使用

 ぼくは以前<ロヒプノール>で眠ってたのですが耐性が付いて少しずつ増えていき、眠れない時にはどんどん追加して飲んでしまうので、漢方の力をかりて思いきって減薬しようと試みました。


 漢方では抑肝散が緊張がぬけて、眠りやすくなる、というのを聞いて、主治医に相談して、「抑肝散加陳皮半夏」というのを処方してもらいました。朝晩2袋です。

 ぼくの証は「虚」というのが主治医の見立てです。漢方薬は「実証」「中間証」「虚証」の体質によって処方されます。大雑把に言って、実証は元気、虚証は虚弱です。

 なぜ「陳皮半夏」という成分がはいってるかというと、漢方は単剤より、いろいろな成分が入ってると、効き目がよりマイルドになり、長期服用に適してる驍ゥらです。

 眠る前の<ロヒプノール>通常は2mgでしたが、漢方の併用で我慢できないくらい無性に眠たくなりました。<ロヒプノール>の眠気が増幅される感じです。1週間くらいして、<ロヒプノール>1mgに落としましたが、朝までぐっすり眠れました。しかし、次の日は、やっぱり、<ロヒプノール>の早朝覚醒がありました。

 次の日にネット上で再び電気ショック論争にまきこまれ、以前再発した時の電気ショック論争で追い詰められたトラウマから、ひどいうつに見舞われました。いっこうに眠くならないので、<ロヒプノール>3mgに増やしました。2時間で目がさめ、まだうつが続いていたので、さらに3mgを飲んで、昼頃まで、眠ることが出来、やっと回復しました。漢方薬の効き目はあくまで自然な感じで、西洋薬のように強制的に直接眠気が来る薬でないことが、よく分かりました。

 次の日からまた<ロヒプノール>1mgにしたところ、起きて朝御飯のあと、12時までまた眠りました。漢方も体調に随分左右されるようです。


 さらに2日ほど後、<ロヒプノール>は1mgのまま眠ると早朝目がさめて朝御飯のあと、すぐ眠って、でも眠りが浅くうつらうつら夢ばかり見ていました。それも現実感があり起きても鮮やかに憶えてる夢です。それは1週間以上続きました。その間必ず早朝覚醒がありぱっちり目がさめて活動してて、体調も一日中しんどかったものから、少し変わってきました。他に手足のむずむず感や筋肉がぴくっとけいれんする症状、頭痛などが現れてきました。早朝起きるとまたス<ロヒプノール>を飲みたくなるのですが、我慢しました。不眠で一晩に10〜15回目が覚める日が続きました。昼間もぼーっとしています。

 3週間目、朝夕抑肝散1袋ずつを夕方2袋、計1日3袋に増量しました。すると覚醒なしに9時半まで眠れました。ちょっと朝眠気が残ります。それからしだいに夜中目が覚めるのが3〜4回になって落ち着いてきたので、<ロヒプノール>をさらに1mgから0.5mgに減薬しました。夜中は目覚めるものの先の2mgから1mgへの減薬のときほど酷くないです。離脱症状も今回の減薬のほうが少ないようです。でも頭痛と筋肉のぴくっとけいれんするのがあります。下痢が酷いので本で調べると下痢は抑肝散の副作用だと分かりました。

 4週間目、下痢が酷いことを主治医に言うと、抑肝散1日2袋へ減薬になりました。

 5週間目、落ち着いています。<ロヒプノール>をなくしてしまうには、ちょっと寝つきに不安があるので、0.5mgで行く事にしました。それまではいびきと無呼吸症候群が酷かったのですが、<ロヒプノール>の減薬で、疲れてる時以外は無くなりました。それと抑肝散の効き目でしょう、起きてる時気分が穏やかです。10時間くらいは効いている印象です。

 その後基本的に<ロヒプノール>なしで眠れました。寝つきの悪い時にだけ<ロヒプノール>を飲みました。

 さらに3ヶ月くらいたって、弱いけれど早朝覚醒のない、<デパス>を入眠剤に変えました。

 主治医から「樋屋奇應丸を飲んでみたら」と言われ、これは保険が効かないので、薬屋で買って飲んでナみました。目をつぶるとお腹に置いてる手で腸の便がうねって腸内を進んで行くのが感じられ、眠りも浅かったです。主治医に報告すると、「動物性の薬に敏感なのは、思ったより虚しているのかもしれない」と言って、以前リクエストしていた補中益気湯を出してくれました。エキス剤は一部化石など使ってるものもありますが、基本的に植物性です。主治医はあまり眠くはならないと言ってたのですが、補中益気湯は抑肝散より心地よいしんどさが訪れ、気持ちよく眠れました。今は、寝る前に補中益気湯と抑肝散、朝早く目覚めて朝ご飯を食べて、補中益気湯を飲み二度寝しています。漢方は基本的に食前薬ですが、食後でもいいそうです。

 西洋薬は半減期が決まっていて、深く長く効かせる為には分量で調節しますが、漢方は疲れてる時には自然に長時間効くように思います。そして疲れていない時には眠たくなりません。

 そして、補中益気湯と抑肝散を同時に飲むことによって、眠気がよりマイルドになったようです。

 いびきと睡眠時無呼吸に悩む人は多いと思いますが、大柴胡湯(実証)、三黄瀉心湯(実証)、半夏厚朴湯(虚証)、柴胡加竜骨牡蠣湯(実証)、加味逍遥散(虚証)、加味帰脾湯(虚証)、四逆散(実証)、柴胡桂枝湯(虚証)、葛根湯(実証)、抑肝散加陳皮半夏(虚証)、葛根湯加川きゅう辛夷(実証)、補中益気湯(虚証)他たくさんあるので、ぜひ医師と相談して下さい。

 漢方の副作用ですが、証を間違えたりすると人によっては蕁麻疹などのアレルギーがでるそうです。大柴胡湯では咳、発熱、息切れなどの初期症状にはじまるアレルギー性の間質性肺炎がまれにおこることがあります。


 何か漢方は睡眠向けというような話になりましたが、中国では文化大革命の時、西洋薬が排斥されたので、統合失調症を大黄で治療したという話を聞きました。

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