終章僕の育てなおし

S子はご主人が亡くなってから、何人もの男と付き合ったそうである。これはS子が好き者なのではなく(というより好き者といわ言われている人はみんなそうだが)愛されているという実感が欲しかったのだろうと思います。女性をとっかえひっかえ付き合う人もいますが、愛情がほしいということだと思います。アルコール中毒や麻薬中毒になる人も、多くは愛されているという実感がないのではないでしょうか。

僕は性に目覚めてから好き者だったと思いますが、実際の女性との関係までもっていくことができず、オナニーばかりしていました。実際に出来る場面になっても、立たず、うまくはいきませんでした。25才の頃付き合ったT子で、女性から能動的にしてもらってやっと童貞とさよならできました。以後、S子と暮らすようになるまで、10年間ほど、3年くらい付き合った.Iさんをはじめ、短い女性で3ヵ月くらい、僕に好意を寄せてくれる5〜6人の女性と付き合いました。女性の愛をむさぼりました。落ち着いた今から考えると、s子も含めてこれは、幼い時に自然な愛に包まれて育ってこなかったため、つまり、育ちそこないを取り返すための、育てなおしの時期だったような気がします。S子は最近「以前は僕がS子の愛情を試すようなことをよくしていた」と言ってます。「僕はそのままでも愛してもらえるんだ」と思えるのにずいぶん遠回りをしてしまいました。童貞を失ってからそう思えるまで15年の月日が経っていました。

これは余談ですが、僕は女の人と付き合うまで、女の人もグーグー寝ることを知識としては知っていても、実感として知りませんでした。同様に、ボランティアをやって障害者と付き合うまで、障害者もグーグー寝ることを知りませんでした。要するに普通の人が当たり前に知っている常識が、僕にはありませんでした。

親との生活を除けば、S子との生活がいちばん長いので、その間にさらに育てなおしが進んだと思います。だから、僕とS子の結び付きは愛情に飢えた者同士の結び付きだったといえると思います。しかし、この年になって、いつ死んでもいいという「うつ」っぽい思いが、時々頭を持ち上げてきます。完全には幼児期の傷は癒えないのかもしれません。そしてこれは、「愛情嗜癖」にはしばしばうつ病を伴うということのようです。

しかし、「育てなおし」と一言で言っても普通は、愛されないから何も出来ない、何も出来ない人には魅力が無いから愛されないというマイナスのサイクルです。ところが愛されるとバリバリ物事に取り組んでいける、バリバリやってると、魅力が出てきて愛されるというサイクルになります。誉めて育てるというのがあります。誉めるというのは愛情だから、ぐんぐん伸びてゆきます。つまり、愛されないサイクルから、愛されるサイクルへとジャンプアップが必要になります。つまり、追いかけてふられるばかりだった人が、どっちかというと追いかけられる存在になること。育てなおしをするには、自分が好きで見つけた目標にどんどん進んでいきながら愛されるしかないと思うのだけど、これは一期一会というか、いい人との出会いしかないと思います。

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