発病の経緯4

仕事を失いぶらぶらしていた私に、B教団の一人Mさんが「羽籐さん、良いものがあります」と言ってきた。それは大理石の壷だった。「これには神の息吹が込められているのですよ」と、言葉巧みに買わせようとした。今自分は仕事もしてないし、お金を払う事は無理だ、と言っても聞かないので、とうとう6万円の壷を買わされた。しばらくの間、その事を家族には隠していたが、もうダメだと思い、母に打ち明けた。詳しい話しを聞こうと教団のMさんに家に来てもらい、その壷が幸運をもたらす、などと説明を受けた。 そこで、その壷は仏壇にしばらく置く事にした。その壷を置いた仏壇に向かって、私は祈ったり教団の賛美歌などを、歌ったりした。がしかし、そんな事で良い事など起きるはずはない。 一ヵ月たってもなにも起きないので、それは仏壇から降ろされた。その頃から、私に精神的な変調が起き出した。(良いことどころか、悪い事が起きたのだ今考えるとバカみたいだ。) その頃からずっと神秘関係の本をよく読んでいたのだが、それが精神的にマイナスに働くようになっていた。世界が自分中心に回っているような、感覚にしばしばとらわれるようになる。空想感覚が、ひどくなっていったのだ。真夜中に、突然天啓がひらめいて、女装して町中を徘徊した事もあった。 教団は、オナニーを固く禁じていたので、そこから精神的な側面と肉体的な側面のバランスも、失った。それをかろうじて救っていたのが、以前から自分が信じていた神秘思想だったが、いつまでも持ちこたえる事は出来なかった。

教団のある男性信者を「お父さん」などと呼ぶようになってゆき、「羽籐さんて、おかしいね」という彼等の声も「羽籐さんて、愉快な人ね」と、勘違いしていた。教団に行っても、その教理をまじめに聞くこともなくなり、勝手に自分一人の世界に浸りきっていた。 お清めの塩を、勝手に持ち出しては、性器にこすりつけて快感を得ていた。だんだんと、精神的に追い詰められて行くのは、感じていたのだが、どうする事も出来なかった。頭痛がして、頭がキューンと締め付けられるような感じが、度々起きるようになるのもこの頃だ。かと思うと、突然「分かった!宇宙のなぞが!」などと言ったりした。霊感が身に付いた、と感じた時には、自分は死んだじいさんだ、などと家族に言ったりした。 それらは本心での行動ではなかった。虚言症の行動だったのだが、自分ではそれを制御出来ないのであった。あの行動を今、振り返れば、それこそが病気の症状だったと思う。奇行もひどくなっていった。 母に対して、わざと迷惑をかけたりして、困らせた。「我はアマテラスオオミカミなるぞ!」などと言ったりしてから、家族の中で特に姉が私をおかしい、と思うようになったようである。教団のメンバー達も家に来て、私の様子を見に来たが、私は空想の世界に浸ってしまっていて、思いつく事をペラペラと彼等に喋ったので、彼等はあきれて帰った。私はそれを見ながら、何かが違う、こんなはずじゃない、という感じだけが残った。その当時、私はその教団の後継者は自分だと、本気で信じていたのだ。その後も、奇行はひどくなる。頭をある一点に固定してグルグルまわる、踊りのような行動である。幻聴が聞こえ始め、幻も見るようになった。母が、「翔、先生に一度診察してもらいなさい。」とこの頃からしきりに言うようになった。私は「何で?別に体は何ともないよ」と拒んだが、あまりにも言われるので、一度だけなら、と病院に行った。その診察の場でも、相変わらず私は空想の世界にいた。例のグルグル踊りや、そばにいた看護婦さんにも、「ね〜ちゃ〜ん」などと擦りよったりしたので、先生に「やはり息子さんは、病気ですね」と診断されてしまう。あの時に、母がこの診察は精神鑑定である、と私に言わなかったのが、良かったのだと思う。それを一言でも言っていたら、それこそ当時頭の回転が早くなっていた私、まともなふりをして正確な診断をさせてなかったと思う。そして、ますます病状を悪化させていたと思う。そしてとうとうM精神科に入院する事となる。これが、最初の発病にいたるまでの経緯である。

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